ジャンプ+の『白膠花高校ローション相撲部』話題になってましたが面白いですね。相撲ファンとして楽しく読めたので細かいネタの解説をしてみようと思います。
本編未読でしたらこちらから。以降ネタバレは気にせず書きます。

まず表紙。ローションでぬめってる手は塵手水ですね。勝負の前に草の露で手を清める作法ですがローション相撲でも取り入れられているようです。よくみると上のコマで百日紅部長が蹲踞姿勢になってるのもわかります。こういった作法は普通の相撲と変わらないようです。
次のページ、見開きの表紙。とてもいい絵でローションをぶちまけているように見えますが、相撲でいう塩を撒く動作がモデルになっていると見ていいでしょう。
部長のユニフォームはスパッツの上にベルト状のまわしとなっています。普通の相撲で使うまわしの股間部分を通す布(立てみつ)がありません。現実でこれではまわしを手で掴んだ時に容易にずれてしまって勝負にならないので、これはファンタジー。かわいく描くデザインの都合か、後ほど出てきますが「常にまわしをつけている」という設定との整合かもしれません。
ちなみにわんぱく相撲などではショートパンツとベルトが一体化した簡易まわしが使われます。これはまわしをとってズボン状の部分で相手を持ち上げられるのでだいぶ本来のまわしに近いです。商品名が「マイティパンツ」というらしい。

土俵で腰を下ろす部長。実際の土俵には中央に仕切り線がありますが本作では省略されています。ローションのぬるぬる表現とかぶるからでしょうか。
仕切りに際し、しっかり手を地面につける部長に対して、元柔道部主将の挑戦者が中腰姿勢の腰高に見え、経験の差があることが読み取れます。
余談ですが、日本のアマチュア相撲を統括する日本相撲連盟の公式ルールでは「両手を同時につき、審判の合図で立つ」ということになっています。大相撲とアマ相撲の違うところですが、ローション相撲はアマのルールに準拠してるわけではなさそうですね。

かっこいい技。名前とエフェクトとしてはスクウェアのRPG『ロマンシングサガ3』の大剣技「地ずり残月」を想起させます。ローション相撲八十二手は相撲の決まり手に由来すると思われますが、実際にはこのような技はありません。多分ローションのぬめりを活かした技なんでしょう。現実の相撲で言えばもろ差しから下手投げに相当するでしょうか。両手を使っているのと足を使った様子がないので、下手投げ+下手捻りだとすると、火ノ丸相撲に出てきた技百鬼薙ぎにも近いのかも。

主人公のまわしはリボン状の結び目が横についています。かわいいですね。部長のまわしは背中側に結び目がありました。実際にまわしを締める際は、股間を通る立てみつを使って背中側に結び目を作ります。
ローション相撲の基本中の基本「タコ足」ですが、これは実際の相撲の基本であるすり足をモチーフにしていると思われます。すり足での移動を身につけていないと土俵際でうっかり俵の外に出る初歩的ミスをしたりします。土俵上の動きを見てすり足ができていると「あ、こいつ経験あるな」とわかるのは相撲あるある。

相撲好きなら明らかに違和感を覚えるこのコマ。作画ミスか?と思わせておいて後で理由が明かされます。普通はこのように逆手でまわしを取ることはありませんし、手が入るくらいのゆる褌だったらすぐにずれてしまいます。おそらくは立ち合いの瞬間に相手が誰か分かるという物語構成上のギミックでしょう。というかこんなまわしの取り方をして力が出る人間いたらすごい。
あ、そうそう前ページp.14には小さく神棚があるのが見えますね。ローション相撲も神事なのかもしれない(?)
次、p.16のお姉ちゃんの惨状ですが、どんな技をかけられてこうなったのか謎です。顔面からの出血に加え左足の曲がり方がヤバイ。後で出てくる「山芋嵐」かと思いきや、あれは仰向けに落ちるので向きが逆です。ただ顔から落ちただけなら足はこうならないので関節技との合わせ技でしょうか。

ルパンよろしく制服を脱ぎ捨てて勝負を挑んでくる部長。テンポが早すぎてツッコミが追いつかないページですね。ここでよくみると、主人公は部長に左上手を取られて即座に自分の右上手(しかも逆手)を取り返して左四つになっています。加えてp.15では左下手が逆手だったので、両手とも逆手まわしでとっていることに。この体勢で力が出るのか?という疑問はさておき、この速度で自分の得意な体勢に持ち込むのはすごい。
p.22に「ローション相撲全国中学大会」と思われるシーンがあり、烏帽子と軍配を身につけた行司が描かれています。ローション相撲の伝統なんでしょう。ちなみに現実のアマチュア相撲の審判はワイシャツ蝶ネクタイが正装です。
参考:アマチュア相撲で活躍する女性審判 大相撲の行司との違いとは? | 毎日新聞

かっこいい技「背沫流し」。体勢からすると『バーチャファイター』等の格闘ゲームで有名になった技鉄山靠に見えます。実際の相撲では四つに組んでからこのように体を離すことは稀ですが、強いて言えば、回り込んで背中で相手の体勢を崩す点で伝え反りが近い技かもしれません。
p.25「技を受けた後遺症で、日常生活は問題ないけど、2度とローション相撲を滑れなくなったの」というセリフがあり、どのような後遺症が残ったのか謎ですが、回想シーンを見るに左膝関節をやってしまった可能性がありそうです。現実にも元関脇の嘉風(現中村親方)がイベント中の事故で膝に怪我を負い引退を余儀なくされた事例があります。その他、首の骨に異常が残ったような場合はリスクの点でまず相撲を取るのは無理でしょう。また両親が離婚したということから部長の記憶の姉と苗字が違うこと(最初に気づかなかったこと)に説明がつけられています。

最後のぶつかり合いだとして襲いかかる部長。しかし両手を広げておりやや漫画的な表現に思えます。実際の相撲で言えば脇がガラ空き、まるでぶつかり稽古です。胸を出すから当たってくれと言わんばかりの体勢なので、これは次の展開に繋げるための演出と見ていいでしょう。

さて問題のこのシーン。ローション相撲では衣服を掴むことが禁止されているようですが、これは現実の女子相撲でもそうなっています。
着衣(レオタード)にまわしで相撲を取るわけですが、相撲である以上衣服を掴むのは反則。もし掴むことが許されるなら別の競技(柔道)になってしまう。そこでローションを掴むというファンタジーを導入しているところにこの作品の妙味がありますね。
技名の「山芋嵐」は柔道技の「山嵐」由来でしょう。相撲の技で言えば、相手の腕を掴んで引き込みつつ投げる一本背負いに相当、また足で相手の両足をかけているので二丁投げとも言えそうです。変形二丁投げといえば火ノ丸相撲の必殺技百千夜叉墜も思い出しますね。
p.32「受け身が取れない」とありますが、実際の動画を見ればわかる通り、背負い投げはきれいに決まれば背中から落ちるので受け身が取れないということはないと思います。後頭部を叩きつけるような形になると危険なのはそうですが、ここもファンタジーの一種であるように思います。
以上、考察してみました。これで現実の相撲に興味を持ったら、大相撲もいいですがアマチュア女子相撲もおすすめしておきます。スピード感のある取り組みは男子とはまた違った魅力があるので。今日書きたかったことはこれくらいです。
